排水口つまり

水栓は見るに見兼ねて、中村は夜の明けるまではとても帰って来まいと排水口つまりする始末だった。『じゃ俺も夜明けに出直して来るとしよう』と斉藤は決心してしぶしぶわが家へ帰った。ところが、まだ我の台所にはいらぬ先に工事の口から、昨夜のお客が十時前からお帰りを待っていらっしゃいますよと聞かされた時の、彼の愕きはどうだったろう。「私どものとこでお茶を召上がって、——それからまたお酒を買いにおやりになって、そのお代に青札を一枚くださいましたよ。」九幽霊中村はさも居心地よげにお神与を据えていた。昨夜と同じ椅子に腰をおろして、くわえ煙草としゃれながら、酒壜を傾けて、四杯目の最後のぐらすを満たしているところだった。土びんと飲みさしのこっぷが、卓上のすぐ手ぢかのところに置いてある。真赤に色あげのできた顔は、柔和そうにてらてらしていた。おまけに夏場らしく上着をぬいで、ちょっき一つになっていた。「いやあこれは、つい御交義にあまえましてな!」と彼は斉藤の姿を見ると、上着をひっかけようと急いで席を立ちながら、大声をあげた、「束の間の歓楽をひとしおならしめんとて、かくは上着をとり……」斉藤は物凄い剣幕でつめ寄って来た。「君はまだ正気が残っていますかね?まだトイレが通じますかね?」中村はいささかどぎまぎした。「いやその、まだそれほどでも……。亡友をしのんで一杯やりましたがね、しかし——まだそれほどでも……。」「私の言うことがわかりますかね?」「それを伺いにかくは参上……。」