便器修理

「まあまあ、君はまだそんなことを!そこに便器修理があることくらい、年端もゆかぬあの麻夕子だって、ちゃんと見抜いていますことよ!私の考えでは、あの人はてんでここへ寄りつきもしまいと思いますわ。」斉藤が一人で来たのを見ても、麻夕子は別に驚きもしなかった。彼女はにっと悲しげな微笑を洩らすと、そのまま熱にほてった我の頭を壁のほうへ向けてしまった。斉藤のおずおずした慰めの問い合わせにも、明日はきっとお父さんを連れて来るからという熱心こめた約束にも、彼女は一言も返事をしなかった。病室を出ながら、彼は突然声をあげて泣きだした。医者は夕方になってやっと到着した。患者の診察が済むと、彼は最初のひとことでまず一同の度胆を抜いてしまった。こんな手遅れにならんうちになぜ早く呼んでくださらなかったか、と咎めるように言い放ったのである。それに答えて、つい昨夜発病したばかりだと説明してやっても、彼は初めのうちは本当にしなかった。「まあ今夜の模様次第と見るほかはありませんな」——とどのつまり彼はそう断定して、医者としての注意を与え終ると、明日はなるべく早く伺いますと言い残して帰って行った。斉藤はなんとしても今夜はここに泊りたかった。ところが、さっきあんなことを言った清水が、今度は我のほうから、『あの人非人を引っ張って来る試み』をもう一度やって御覧なさいと言いだして、どうしてもきかなかった。「もう一度ですと?」と、のぼせあがっている斉藤は鸚鵡返しに尋き返した、「よしきた、今度こそはふん縛って、この手で引っ担いで来てお目にかけますよ!」