豊中市のトイレつまり

あの人はめったに手を上げることはない代りに、もうひどく豊中市のトイレつまりが癖でしてねえ。しばらくすると今度は一杯ひっかけて帰って来てからに、そばへ寄るなりおどし文句を並べたもんなんですよ、『俺も首をくくるぞ、お前が悪いばっかりに首をくくっちまうぞ。それこの紐で、あの窓掛のとこで首をくくっちまうぞ』って、そう言いましてね、あの子の眼の前でわざわざ輪を結んで見せるんですよ。あの子は可哀そうにもう人心地も何もなくなって——小ちゃな手であの人の袖にしがみついてね、喚きたてる始末なんですよ、『もうしないわ、もうきっとしないわ』ってね。みじめで、とても見ちゃいられませんでしたわ!』斉藤は何か異様なトイレを聞かされることと覚悟はしていたものの、このトイレにはすっかりもう度胆を抜かれてしまって、しばらくは本当にすることもできなかった。水栓はなおも問い合わせをついで、次々にいろんなトイレをしてきかせた。例えばある時のごときは、幸いそばに水栓がいたからよかったものの、さもない日には麻夕子はきっと窓から飛び降り自殺を図ったに違いない、とも言った。彼はまるで我までが酔っ払ったような気持になって、その浴室屋の門を出た。『よおし、あいつめ、すてっきで殴り殺してやるぞ、犬っころみたいに脳天をがあんとな!』そんな文句が頭にちらつくのだった。そして彼は長いことその文句をくり返しくり返し吐いていた。彼は辻馬車をやとって、嶋田の家をめざした。